カランと音が鳴って、刃が地面を滑っていった。
「…っ!?」
しまった、と思ったときにはもう遅く…。
短剣が喉元に当てられて、スコールは身動きが取れなくなってしまった。
「…何が望みだ」
「へ?」
まさか忘れているんじゃないだろうな…?と思いつつ、忘れているならそれはとても都合が良いかもしれない。
スコールは「別に…」と先ほどの言葉を消そうとした。
しかし、ジタンは即座に思い出したらしい。
嬉しそうにポンと手を叩いて。
「そうだった!!いやー嬉しすぎて忘れるところだったぜ」
にひひ…と笑ってスコールを見上げた。
「勝った方が負けた方に好きな命令して良いんだよな!!」
「……」
スコールは息を吐いて、額を押さえた。
−そのまま忘れてくれれば良かったのに…と。
「じゃあオレがスコールに好きなこと命令出来るんだよな」
何にしよっかなぁー♪とジタンがスコールの回りをゆっくり歩く。
数刻前のこと。
暇だから手合わせしよう、と言い出したジタンに付き合って、打ち合いをしていたのだが。
いつの間にか「勝った方が負けた方に好きなことを命令出来る」という条件がついていた。
ジタンの実力は、まだスコールの下で。
まさか…負けるとは思っていなかったので、この条件をのんだのだ。
しかし。
結果は…。
− ジタンの力を見誤ったのが自分の落ち度だ。
スコールは自分を呪ってため息をついた。
ジタンは暫く考えて「そうだ!」と何か思いついたようだ。
「アレやろうアレ」
「何だ?」
「寸劇。…いや、劇とはいってもさ、声だけでいいや」
つまり、とジタンは人差し指を立てる。
「オレとスコールで劇の台詞を言い合うんだ」
簡単だろ?とジタンは言うが。
そんなことを言われても、やったことが無いのでいまいち分からない。
「…で、どうやるんだ?」
「オレが台本書くから。それを見ながら交互に台詞を言っていくんだ。でも…まずは話を決めないとなぁ…そうだ、思い切り甘い恋物語はどうだい?スコールが王子様役で…まぁ、オレは姫でもいいか」
王子様スコール、とジタンは呟いて笑う。
スコールが喋る、王子様特有のクサイ台詞が聞ける…とジタンはニヤリと笑った。
ちょっと待ってな、とジタンは紙を広げてさらさらと何かを書き出した。
「オレが前に演じたことのある劇で、良いのがあるんだよな。それやろう!」
うーん…とか、あれ…どうだっけ?等と呟きながら、ジタンは二人分の台本をあっという間に書き上げた。
「さすがに全部は長いからな。ワンシーンだけ切り出してみたぞ」
はい台本!と手渡される。
「………?………っ!!!」
始めのページを何枚かめくったスコールが段々顔をしかめていく。
ジタンはその様子をニヤニヤしながら見守り、「罰ゲームっぽくしなきゃ、戦いに勝った意味無いからな」と笑った。
「場面は、囚われのお姫様を王子が助けに来たところからだ」
さぁどうぞ?とジタンが目線でスコールに合図する。
スコールは渋い顔のまま、はぁ…と短く息を吐いた。
台本は王子の台詞から始まっている。
『姫ご無事か…』
「………」
ジタンがいやーな顔をした。
「そこはもっと感情込めろよな…まぁいいか」
『あぁ王子様!助けに来て下さったのですね…っ!!』
優しいアルトの声が辺りに響いた。
決して大きな声じゃ無いのに、空気を割るように届く声。
流石…としか言いようが無かった。
その声はもはや女性のものにしか聞こえない…。
目を見張るスコールに、なかなかだろ?とジタンがウィンクした。
『王子様…数多の姫の中からわたくしを選んで下さって嬉しいですわ』
『他の姫との時間も甘美なものでしたが、やはり私には貴方だけだ。貴方の甘い声や、身体の柔らかさを忘れることはで、き…なかった…』
なんだこれは、とスコールが視線を寄こすので、ジタンは苦笑いで答える。、
「…浮気症でむっつりなんだよ、その王子様」
大衆劇だからそんなのもアリなんだよ、と悪びれずにジタンは言う。
「そうなのか…」
その王子の役をやる自分って…とスコールは少し悲しくなった。
『だが、もう心の迷いは晴れた…私は貴方を』
台本の文字がそこで終わってしまい、ページを捲るためにスコールはそこで台詞を途切れさせた。
ぱら…とページを捲って…
その顔は固まる。
「どうしたの〜スコールさん?ちゃんと言わなきゃダメデショ?」
ジタンが意地悪そうに笑ってスコールを覗き込む。
「………っ」
…なるほど、とスコールは思った。
ジタンはこうやって自分をからかうつもりで劇をしようなどと言い出したのだ。
− く…っ
このままではジタンの思うつぼ。
それは悔しい…。
スコールは頭を働かせて、打開策を思案した。
そして。
姫…と囁くように言い、目の前のジタンの頬に手を滑らせた。
え、と驚愕に目を見開くジタンには構わずに…。
『愛してる…』
わざと、掠れたように甘い声でスコールは告げた。
「…っ!!」
その言葉の振動に震えるように、ジタンの体が揺れた。
その頬は一瞬で赤くなり、リンゴみたいだ。
甘い告白なんてしたことはないが、ジタンの反応を見る限り、これが正解で良いらしい。
思わずクスリと笑いが漏れた。
あまりにも…あまりにも純なジタンの反応がおもしろい。
「… ジタン」と呼びかけてからもう一度。
『愛してる…』
至近距離の甘い告白に、ジタンが息を飲んだのが分かった。
しかも、何だか…。
役ではなく、自分自身が言われているような錯覚を起こしてしまう。
その手は台本を落としそうなほど力が抜けていて。
今度はニヤリとスコールが笑う番だった。
「…おい」
とスコールが声をかけ、ジタンは我に返った。
『あ…っ!え…っと…。う、嬉しゅうございますわ…王子様…わたくしも…』
慌てた声で台詞を言い、ジタンはスコールを見上げた。
頬が真っ赤になっていて、目まで潤んでいる。
『愛しています…わ…』
囁くような声でジタンは言い、ぱっと顔を背けてしまった。
…言い出しっぺが照れてどうする、とスコールは言いたくなった。
でも、顔をそらして羞恥に耐えるジタンはとても可愛らしい。
スコールはふと思いついて、ジタンの体を抱き寄せる。
「…っ!!」
ピクリと震えた体を腕の中にしまい、拘束してしまう。
「ちょ…スコール…っ」
「次の台詞は『王子様…』だろう?」
「!!!」
髪を優しく撫でながら抱くと、ジタンの早い鼓動が全身から伝わってくるのを感じた。
とてもおもしろい…。
スコールはジタンを真似て、わざと意地悪そうに笑ってみる。
「この後、台本にはキスをすると書いてあるが?」
「!!そ、そんな話だっけ…!?」
ジタンは慌ててページをめくる。
確かにそこにキスの文字を見つけて、卒倒しそうになった。
そうだった…。
ラブシーンで照れてしまったスコールをからかうのが目的で、こんな甘い恋愛話を選択したのだ。
目の前のスコールは、形勢逆転と言わんばかりの涼しい顔でジタンを見下ろしている。
反対にジタンの方が、スコールに翻弄されてしまっていて。
ジタンは、それでも、と小さい手でスコールの体を押し返そうとした。
「スコール、キスは…やっ」
「もう遅い…」
抵抗する小さな手を握り込んで封じ。
スコールはゆっくりと…『お姫様』にキスを落とした。
(おわり)
ツクヨ様より相互記念小説を頂きました!
リクエストが89で!とアバウトなもので……ツクヨ様スミマセンでした;
素晴らしい小説をどうもありがとうございました!
あと、十分甘いかと思われます隊長!(ちょ、隊長誰…;
もう貰ってうはうはですよwジタンカワユスな〜ww
っと言う事で、本当にありがとうございました〜!!



